高齢化社会と言われて久しくなりました。それに伴い、認知症の方や、慢性的な重い疾患を抱える方をご家族が介護する場面も増えています。
介護は、単に「手伝う」「見守る」という言葉だけでは表しきれない、長く、終わりの見えにくい負担を伴うことがあります。特に、ご家族のどなたかお一人に介護の負担が集中している場合、その心身への影響は非常に大きなものになります。
介護うつ病とは
認知症や慢性疾患を持つご家族の介護を続けるなかで、介護する側の方に 気力の低下、不眠、食欲不振、疲労感、集中力や判断力の低下 などのうつ症状が続くことがあります。
このように、介護による強いストレスや慢性的な疲労を背景として、介護する方自身にうつ症状があらわれる状態を、一般的に 「介護うつ病」 と呼ぶことがあります。
介護うつ病は、介護する方の弱さや甘えではありません。むしろ、長期間にわたりご家族を支え続け、限界を超えるほど努力されてきた結果として、心と体が悲鳴をあげている状態と考えるべきです。
認知症介護では、ご家族の負担が非常に大きくなることがあります
認知症の症状にはさまざまなものがあります。物忘れや、身の回りのことが少しずつ難しくなる段階でも、ご家族の負担は決して軽いものではありません。
さらに、症状が進むにつれて、 徘徊、昼夜逆転、強い不安、怒りっぽさ、被害妄想、介護への拒否 などがみられるようになると、日々の対応はより過酷になっていきます。
精神科の診療によって、認知症に伴う不眠、不安、興奮、妄想などの症状を軽減できる場合もあります。しかし、それでもなお、介護するご家族が毎日向き合わなければならないストレスは、誰にも簡単に代われるものではありません。
介護うつ病でみられやすい症状
介護を続けるなかで、次のような状態が続いている場合は、介護うつ病やうつ状態の可能性があります。
- 以前より気力が出ない
- 眠れない、途中で何度も目が覚める
- 食欲が落ちている
- 疲れているのに休めない
- 涙もろくなった
- 集中力や判断力が落ちた
- 小さなことで強く落ち込む、またはイライラする
- 介護のことを考えると動悸や不安が強くなる
- 「もう限界かもしれない」と感じることが増えた
これらの症状が続く場合、早めに精神科・心療内科へ相談することが大切です。
介護うつ病がつらい理由
どのような病気であっても、原因となっている環境から距離を取ることが、治療や回復につながることがあります。
しかし、介護うつ病の場合、その原因である介護から離れることが現実的に難しい場合が少なくありません。
「自分がやらなければならない」
「他に頼れる人がいない」
「施設に入りたくても空きがない」
「本人がサービスを拒否する」
「家族のなかで自分だけが抱えている」
こうした状況が続くと、休むことも、泣くことも、怒ることもできないまま、心身の負担だけが積み重なっていきます。
介護する方ご自身も、診療を受けてよいのです
介護の果てに、本当に痛ましいニュースを耳にすることがあります。当院は、そのような出来事が一切なくなることを願っています。
介護ストレスによって、不眠、気力低下、食欲不振、強い不安、抑うつ気分などの症状が出てきた場合、あるいは「とにかくどうしようもなくつらい」と感じた場合は、できるだけ早く受診していただきたいと思います。
診察では、症状を治療することだけでなく、日々の介護の大変さを言葉にしていただくことも大切です。誰にも言えなかった苦しさを話すこと自体が、回復の第一歩になる場合があります。
適切な表現であるかはわかりませんが、ご自身が病気になるほどまでご家族の介護を続けてこられた方に対して、当院は深い敬意を持っています。
介護する方が倒れてしまう前に、どうか早めにご相談ください。
認知症だけでなく、慢性的な重い病気の介護にも起こりえます
介護うつ病は、認知症の介護だけに限ったものではありません。
がん、難病、脳血管障害、身体障害、精神疾患、その他の慢性的な重い病気を持つご家族を長く支えている方にも、同じように心身の限界が訪れることがあります。
介護は、医療や福祉の制度だけでは支えきれない部分を、ご家族が担い続けている現実があります。その負担は、外から見えにくく、周囲に理解されにくいことも少なくありません。
越谷こころクリニックでのご相談について
越谷こころクリニックでは、介護によるストレス、介護疲れ、介護うつ病、不眠、不安、気力低下などについて、精神科・心療内科の診療を行っています。
症状の治療とともに、筆舌に尽くしがたい継続する介護の大変さを、少しでも共有したいと考えています。
「この程度で受診してよいのだろうか」
「自分が我慢すればよいだけではないか」
そう思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、介護する方の心身が限界を迎える前に相談することは、ご本人のためだけでなく、介護を受けるご家族を守ることにもつながります。
※強い希死念慮がある場合、自分やご家族を傷つけてしまいそうな不安がある場合、または緊急性が高い場合は、医療機関、救急、地域の相談窓口などへ早急にご相談ください。
精神科専門医 山田 雄弘
