“メンタルが弱い人だけが精神疾患になる”という誤解について
昔から「メンタルが弱いから精神の病気になる」というイメージが根強くあるように感じます。しかし、心療内科で長年多くの方の診療を続けていると、実際にはそういう次元の問題でははないと強く感じます。
特に、まわりから「メンタルが強い」と思われ、実際にあまり落ち込んだことがないまま年齢を重ねてきた方が、ある日を境に長期的な治療が必要になる場合も決して少なくありません。
たとえば、年齢的な身体の衰えや持久力の低下など、今まで気にもしなかった不調に直面したとき、以前は当たり前にできていたことができなくなってしまう―― その変化に強い不安を抱きやすくなり、心のバランスを崩すことがあります(これを「心気的」と呼びます)。
また、「メンタルが強いから安心」「頼んでも大丈夫」というイメージを持たれがちな方や、「断れない性分」の方も注意が必要です。
生き物である以上、どんなに元気な方でもいつかは昔のように動けなくなる瞬間がやってきます。仕事や作業でこれまで通りのパフォーマンスが出せなくなったとき、大きな戸惑いとストレスが一度にのしかかるため、心療内科を初めて受診される方も多いのです。
実際の診察では、「なぜ急に今までできていたことができなくなったのか」「こんな不調は初めてだ」という戸惑いや苦悩の声をたくさん耳にします。それまで“強い人”として周囲に認識されてきた方ほど、自分の弱さや体調の変化を受け入れにくく、大きく心のバランスを崩してしまうこともあります。
「強さと弱さは紙一重」という言葉があるように、心身ともに変化しない人はいません。
長年、自分の弱さを言葉にできずに頑張ってこられた方ほど、その反動も大きくなりがちです。私自身も心療内科の診察を続けるなかで、どんな方にも心と体が変化する時期は訪れるということを痛感しています。
どうか、「精神的にも永遠はない」ということを忘れずに、ご自身を大切にしていただきたいと願っています。
精神科専門医 山田 雄弘